最近の朝は、必ず小鳥の声で目が覚めます。澄んだ鳴き声は私の無意識に染み込み、涙の泉をはらはらと溢れさせます。私はその涙を拭うこともなく、庭の木に訪れる一羽の瑠璃鳥を眺めるのが日課になってしまいました。
あの瑠璃鳥は、いつかあなたが気まぐれに買ってきたつがいの一羽です。あなたが灰になった後も、暫くは私の心を癒してくれていましたが、少し前に雌鳥が死に、あなたの灰と同じ桜の樹の下に埋めました。ただ一羽、ぽつりと籠に残る雄鳥を哀れに思って逃がしてやったのですが、雄鳥はこの庭から羽ばたくこともなく、今朝も死んだ雌鳥を偲ぶようにないているのです。
葉も落ちきった晩秋の桜に、鮮やかな瑠璃が咲く姿はどこか物悲しく、夏の終わりに旅立たなかった瑠璃鳥は日ごとに痩せ細っていきます。私は何度か餌を蒔きましたが、瑠璃鳥は口にしてはくれませんでした。まるで死を望んでいるかのように見える頑ななまでに無垢な姿は、いつかのあなたを彷彿とさせます。
ぴりりと冬の空気のような清廉さを孕んだ声は、会いたい恋しいとないているように聞こえて、私はいつもあなたを思い出すのです。あなたの灰を抱いて、あなたの魂の欠片を抱いて、私はまだ生きています。そしてこれからも生きていくのでしょう。淋しくなんてありません。悲しくなんてありません。悔やんでなどいません。あなたと共に生きた年月はこの世界の何を用いても喩えられないくらい幸せで、ただただ私は海のようなあなたの愛に揺らめき、空のようにあなたを愛したのですから。
ただ、瑠璃鳥がなくのです。あなたが恋しい、あなたに会いたいとなくのです。あなたを求めて泣き叫んでいます。私がではありません、庭の瑠璃鳥がです。
ぴりり、と今日も涼やかな声が響いています。楽しげに、悲しげに、私の胸に響きます。だからほら、早く会いに来てあげて下さい。夢幻でも構いません、早くしないと、叫びすぎた喉が潰れてしまいそうです。早くしないと、泣きすぎた目が腐ってしまいそうです。
「あなたに、あいたい」
泣いています、泣いています、私の瑠璃鳥が。